2009/10/30

僕は優しくなんかない、ただ優しいふりをして生きているだけなんだろう。

人の良さそうな営業マンだった。そんな彼をダシに使ったのだ。
21時過ぎに事務所に帰ってきて電話をくれた彼の声は、疲れながらも誠意と真心に満ちていた。
それなのに僕は彼を蹴った。僅か5,000円の差額で。
彼にギリギリまで値下げをさせた挙句、その価格を他社へ引き合いに出して価格を更に引き下げて依頼したのだ。
これが賢い値段交渉の常套手段ではある。ただ、何とも。

年は50ほどで白髪は多く顔は痩せ、くたびれた紺色のスーツを着てきまらない安物のネクタイをしていた。
彼の家族や暮らしのことを思うと、僕は自分のとった行動に対してひどく憂鬱な気持ちになる。
たとえば仮に明日彼が自殺をしたとしても、きっと僕はなんの痛みも感じず、朝には納豆と味噌汁付きの充実した食事を摂るだろう。
次の日には忘れるだろう。僕は偽善者だ。

きれいなものの大抵は世界に対して不可抗力だ。なんの役にも立たない。
マッチ売りの少女やフランダースの犬もそう物語っている。
同情なんて、結局のところ誰のことも救えない。
"同情するなら金をくれ" とはよく言ったものだ。
同情するくらいなら、僅か5,000円で買えたはずの彼の誠意と真心を迷わず買えば良かった。
そう後悔した。
それも、後の祭りだ。

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