2009/11/01

実家の引越しをした。先月末のことだ。

住み慣れた部屋から荷物を全て運び出し、照明器具を取り外した。
全ての部屋から明かりが消え、空っぽにして家を出る頃。
煙草のヤニで汚れた壁に僕の声が乱反射して響き渡る。
いつも狭苦しい部屋だと嘆いていたけど、本当はこんなに広い部屋だったのな。
そう思うと、どこか感慨深い気持ちになった。

「5年間、お世話になりました」

僕とおじさんはそう呟いて玄関先で頭を下げ、名残惜しそうにドアを閉めてカチャリと鍵をかけた。
もうこの部屋には二度と帰らないと思うと、今まで過ごした思い出がじわじわと蘇る。
あの水の出が悪かった風呂場のシャワーも、雨の日には臭いの上がってきた台所も、
便座の冷たいトイレも、エアコンのない僕の部屋も、今となっては愛しい記憶だ。

しかしながら。
母や妹は一足先に車に飛び乗っていて、不思議と部屋を顧みることすらしなかった。
もはや新築の家のことで頭がいっぱいだ。5年間慣れ親しんだ部屋にひとひらの未練すら持たない。
彼女たちの心理を見て改めて実感した。やはり女は潔い、と。
次のステップに希望の兆しが見えれば、本能的に過去を振り返らない生き物なのだろう。
新しい男が出来れば、昔の男への慕情は跡形もなく消滅してしまう。
感情としての記憶が、情報としての記憶へとシフトする。
つまり、そういうことだ。

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